カメラを趣味にする人にとって、「天の川を撮る」ことはひとつの大きな目標です。
夏の夜空を流れるように横切る淡く幻想的な帯は、カメラ越しに撮るとこの上ない感動を与えてくれます。
しかし、都市の光が溢れる関東圏では肉眼で天の川を見ることすら難しいと感じる人も多いはずです。
そんな中、神奈川県内にいながらにして美しい天の川が狙えるロケーションが存在します。
それが三浦半島の先端、城ヶ島(じょうがしま)です。
この記事では星空撮影初心者から上級者まで納得できるように、城ヶ島が天の川撮影に最適な理由、ベストな時期、機材・撮影テクニック、現地でのマナーまで徹底的に掘り下げてご紹介します。
Contents
城ヶ島ってどんな場所?
神奈川県三浦市に位置する「城ヶ島」は、東京湾と相模湾の境目にある、自然豊かな小さな島です。

この写真の下の赤丸で囲った場所が城ヶ島です。
横浜市からずっと南下していき、三浦市を通ってようやく城ヶ島にたどり着くことができます。
全長はおよそ1.8kmというコンパクトな島ながら、その地形は非常に個性的です。
三方を海に囲まれ、岩礁・洞門・崖・灯台・松林など、多様な風景が1つの島にギュッと詰まっており、四季を通じて写真家たちを惹きつけています。
特に春から夏にかけては南の空が大きく開けており、天の川を絶好のアングルでとらえられる場所として知られています。
なぜ城ヶ島こそが天の川撮影の聖地なのか?
ここでは城ヶ島が天の川撮影の聖地と言われる理由を書いていきます。
神奈川随一の光害フリーゾーン
星空撮影における大敵、それは光害(ひかりがい)です。
近年の都市化により空が人工の光で明るく照らされ、天の川のような淡い天体が見えづらくなっています。
城ヶ島は三浦半島の最南端という立地のおかげで周囲に大都市がほとんど存在せず、特に南の空が非常に暗いという貴重な条件を満たしています。
これは神奈川県内では極めて希少なポイントです。
神奈川県でもうひとつの候補に上がるのが宮ヶ瀬湖ですが、年々街灯が増えて天の川が見えづらくなっているそうです。
城ヶ島は、快晴で透明度がいい夜には肉眼でも天の川の帯状の光が確認できるレベル。
その暗さのクオリティは都内から気軽に行ける範囲の中では屈指です。
写真にドラマを生む前景の宝庫
星景写真において、空だけを撮るのはもったいないです。
美しい前景(地上風景)と組み合わせることで、写真にストーリー性や奥行きが生まれます。
城ヶ島には前景として使えるポイントが数多く存在します。
・馬の背洞門(うまのせどうもん)
アーチ状にくり抜かれた自然の岩門で、天の川との構図が特に人気。
人工的ではなく自然の現象で岩の輪っかができているのは全国でも珍しいです。
・安房崎灯台
無人の白い灯台。
幻想的な風景をつくります。
・岩礁地帯や切り立った断崖
荒々しくも美しいシルエットを演出。
・松林と芝地が広がる城ヶ島公園
広角撮影に向いた平坦な風景。
組み合わせ次第で映画のワンシーンのような写真が撮れるのが、城ヶ島の最大の魅力と言っても過言ではありません。
特に馬の背洞門と天の川を撮ることができたら凄まじい達成感があると思います。
ただ、海に近い岩場を歩かないといけないので安全対策はしっかりしてください。
アクセスと安全性のバランスが絶妙
東京から車でおよそ1時間半、横浜からおよそ1時間とアクセスも良く、夜や早朝の移動でも負担が少ないのがいいポイントです。
公共交通機関を使う場合でも京急の三崎口駅からバスで20分ほどで到着します。
夜でも歩きやすい遊歩道や展望スペースが整備されており、都市近郊では珍しい「安全に夜景撮影できる星空スポット」として人気です。
駐車場も複数あり、使い勝手の良さも見逃せません。
ただ、城ヶ島公園の駐車場は夜には閉まってしまうので駐車場からかなり歩く必要があります。
早めに到着して準備しましょう。
天の川が最も美しく見える時期・時間帯とは?
ここでは、四季の天の川でも最も迫力のある夏の天の川について解説します。
天の川の中心部(銀河の濃い部分)が最もよく見えるのは3月から7月です。
3月:3時から5時頃まで
4月:1時から4時頃まで
5月:23時から4時頃まで
6月:21時から3時頃まで
7月:20時から3時頃まで
ただ、私のイチオシの季節は3月です。
3月をおすすめする理由
なんで3月の明け方をおすすめするのかというと、南東方向に斜めに傾いている天の川と明け方の薄明の空が一緒に撮れるからです。
3月の3時から6時頃まで南の空をずっと見ていると、天の川がどんどん昇ってきて、日の出前に太陽の明かりに吸収されて消えるまでの時間の流れが一度に楽しめます。
特に5時から5時半の間頃にはこのような風景が撮影できます。

星図アプリ Sky Guide より
オレンジ色に照らされる地平線と段々薄くなっていく天の川を同時に撮影できるチャンスは一年のうちに数週間しかありません。
実は私も未だに撮影したことがありません。
限られた機会にしか撮影できない光景なのでぜひ挑戦してみてください。
ちなみに、6月と7月は梅雨でほとんどチャンスがないので3月から5月をおすすめします。
月齢・月の出没時間に要注意!
天体観測で非常に重要なのは月の巡りです。
満月の夜は空全体が明るくなり、天の川はほぼ見えません。
新月前後の3,4日間を狙い、月の出没時刻もチェックしておきましょう。
天文アプリ Sky Guide や Star Walk などを使えば天の川の位置、時間帯、星の動きが一目で分かります。
他にも月齢カレンダーを活用してください。
天の川撮影のための撮影機材と設定
星景撮影に挑むにはそれなりの装備とテクニックが必要です。
以下に必要な機材と設定例を紹介します。
必須機材
カメラ:ミラーレスカメラがおすすめ
レンズ:広角レンズ(14-24mm), 明るさF2.8以下
三脚:頑丈でブレに強いもの
レリーズまたはタイマー:シャッター時の振動を防ぐ
モバイルバッテリー:長時間撮影では必須
ヘッドライト:目に優しく撮影に支障が出にくい
撮影設定例
f値:開放(f2.8以下がおすすめ)
シャッタースピード:15秒前後(焦点距離によって調整)
ISO:3200前後
私はフルサイズカメラで20mmのレンズをつけてf1.8, シャッタースピード10秒とISO3200で撮っていますがいい感じに撮れています。
10秒なら星の流れも気にしなくて済みます。
30秒あたりで星が線みたいな形になってくるので注意しましょう。
*赤道儀を使えば星の流れを気にせずに撮影できます。
肝心の作例を大公開!
「城ヶ島でどんな感じに撮れるんだろう?」と思っているあなたに、実際に私が城ヶ島で撮影した写真を紹介します。

Nikon Z6II, NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
f1.8, 10sec, ISO3200
これは城ヶ島公園の中から撮影したものです。
城ヶ島公園内は街灯がほとんどなく、綺麗な星空が楽しめます。
この日は薄雲が大量発生していて、寒くて帰ろうと思ったときに急に晴れ始めました。
空は気まぐれですね🥺

同じ日に撮影した干潟星雲と三裂星雲です。
photogenic-night-sky.hatenablog.com
星景写真だけでなく天体写真も楽しめます。

Nikon Z6II, NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
f2.8, 30sec, ISO400
これは快晴の日に撮影したものです。
天の川が肉眼ではっきり見えました。
もちろん写真にもばっちり写ります。
ポータブル赤道儀に乗せて撮影したので全然星がぶれてません。
もう少しISOを上げてもよかったかなと反省しています。
撮って出しは暗かったですがRAW現像で明るくしました。

Nikon Z6II, Ai Zoom Nikkor 35-200mm F3.5-4.5S
FL=200mm, f4.5, 30sec, ISO400
これは激安レンズで天の川を撮ったものです。
城ヶ島でどれくらい写るかなと思っていましたがめっちゃ写りました。
四隅の星が矢印みたいになってますがレンズのコマ収差のせいです。
撮影前の事前準備と現地での注意点
ここで注意点を書いておきます。
ロケハンは昼のうちに済ませる
夜は想像以上に真っ暗です。
ヘッドライトなしでは足元がわからないほどで、特に海沿いの岩場は非常に危険です。
滑って怪我をしたり、海に滑落してしまう危険もあります。
撮影場所の下見や構図の確認は明るいうちに行っておくのが鉄則です。
安全確保にもつながります。
海辺に行くときは滑りにくい靴を選ぶ
地平線近くの天の川を写したくなって海辺に行く場合は要注意です。
特に馬の背洞門に続く道はゴツゴツした岩場で、注意していないと簡単に滑ってしまいます。
滑りづらい靴で行くと安心感が違います。
レンズ交換はNG
焦点距離を変えたくなってレンズ交換をしたくなるかもしれませんが、城ヶ島でレンズ交換をするのはやめたほうがいいでしょう。
城ヶ島には常に潮風が吹き付けています。
レンズを外したときに潮風の塩分がカメラのセンサーにつき、汚れや故障の原因になることがあります。
「これ一本」と決めたレンズで撮影に行きましょう。
気象・風対策を万全に
城ヶ島は海に突き出た地形のため風が強い日が多く、霧も発生しやすいエリアです。
強風注意報が出るほど強い風が吹くこともあります。
三脚は頑丈なものにしてください。
また、防寒着・ウインドブレーカーの携帯は必須です。
レンズの結露対策(レンズヒーター)も準備しておきましょう。
私はレンズヒーターは4つ持ってます笑
他の撮影者の邪魔をしない
馬の背洞門は人気スポットで、新月前後の晴れた夜には大体人がいます。
周りに人がいる中で強いライトを照らしたり、邪魔になる場所で立ったりしていると迷惑です。
特に気をつけてほしいのが「星空ポートレート」で、馬の背洞門の中に立っている人をシルエットに背景に天の川を写すものが流行っています。
結婚式の前撮りで訪れることもあるかもしれません。
しかし周りには馬の背洞門と天の川を撮りたい人がたくさんいます。
馬の背洞門の中に立つ場合は必ず周りの人に声をかけて、短時間で済ませるようにしましょう。
周りに人がいなければ大丈夫です。
城ヶ島はマグロで有名
天の川を撮影し終えた後、せっかくなら近隣の観光やグルメも楽しみたいところです。
城ヶ島や三浦市は特にマグロが有名で、マグロ目当てで都内から人がやってくるほどです。
京急が「みさきまぐろきっぷ」というものを発売したりしています。
ただ、みさきまぐろきっぷは当日に限り有効なので日をまたぐ天の川撮影には使えません。
残念ですね。
城ヶ島に行ったらぜひマグロを味わってみてください。
美味しいですよ。
まとめ:天の川を撮るなら「城ヶ島」で決まり!
神奈川県内にあって、ここまでの条件がそろった星空スポットは他にありません。
光害の少なさ、綺麗な景色、アクセスの良さ、そして何よりも美しい夜空。
「関東に住んでいてもここまでの星景が撮れるんだ」と驚きと感動が味わえるはずです。
新月の夜、あなたのカメラで無数の星々をとらえてみませんか?
城ヶ島で見た星空はあなたにとって一生忘れられない一枚になると思います。
では。
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