夜空に瞬く無数の星々を見上げていると、ふと写真に残したくなる瞬間があります。
その中でもひときわ感動的なのが天の川です。
とはいえ、いざ撮影しようとすると最初に立ちはだかるのが「シャッタースピードは何秒がいいの?」という壁です。
10秒?
15秒?
20秒?
選ぶ秒数によって、星の写り方は大きく変わってきます。
星が点に写っているか、線になっているか。
天の川の淡い構造が出ているか、潰れてしまっているか。
この記事では私自身が実際に撮影した作例をもとに、10秒・15秒・20秒の3つのシャッタースピードでどう違いが出るのかを詳しく紹介します。
また焦点距離や画素数といった条件の違いにも触れながら、「自分に合ったシャッター時間」の選び方も丁寧に解説していきます。
Contents
シャッタースピードの違いは写真にどんな影響を与える?
カメラのシャッターを開けている時間(シャッタースピード)が長ければ長いほど、センサーに入ってくる光の量は増えます。
そのため天の川の淡い部分や星雲、空の色までしっかり写し出すことができます。
シャッタースピードが長いほどノイズが減るのは集められる光の量が増えるからです。
一方で、シャッタースピードが長すぎると「星が動いてしまう」という問題があります。
地球は自転しているため、固定撮影では星は少しずつ動いていきます。
つまり、露光時間が長いと星が線状に写ってしまい「流れている」ように見えるのです。
この「明るさ」と「星を点像に保つ」バランスこそが、シャッタースピード設定の難しいところでもあり面白いところでもあります。
シャッタースピードが短すぎれば写真がノイズまみれになります。
逆に、長すぎれば星が線のように伸びてしまいます。
そこで、最適なシャッタースピードを見つけるべく10秒・15秒・20秒で天の川を撮影し比較してみました。
10秒・15秒・20秒で撮影して比較
私が使った機材はカメラが Nikon Z6II でレンズが NIKKOR Z 20mm f/1.8 S です。
Nikon Z6II はフルサイズでおよそ2400万画素と、フルサイズカメラにしては控えめな画素数です。
なのでたとえば4000万画素以上のカメラを使う場合、より画素が細かくなって条件がさらにシビアになります。
その条件のもとで作例を見てみましょう。
f値はf1.8, ISOは3200で固定しています。
10秒
まずは10秒露光の天の川の撮って出しです。

10秒なので少し暗いですね。
ですが星はぶれていないように見えます。
天の川の星雲を拡大してみましょう。

目を凝らすと細長い星もありますが、ほとんどわからないレベルです。
さらにわし星雲のあたりを拡大してみます。

画素数の限界に来た感じですね。
ここまで拡大しても星像が崩壊している感じはありません。
f1.8でこれなので NIKKOR Z 20mm f/1.8 S は本当にすごいですね。
次は15秒を見てみましょう。
15秒
まずは全体像の撮って出しです。

10秒のときよりも写真が明るくなり、より綺麗になりました。
ですが問題は星の形です。
星雲のあたりを拡大してみます。

10秒のときよりも明らかに流れてしまっています。
ほとんどの星が細長く伸びてしまっていますね。
ただ、これは個人の好みなので「全然大丈夫」という人もいれば「こんなに流れてて許せない」という人もいるでしょう。
私はこのレベルまでなら全然だいじょうぶです。
逆に10秒のほうがノイズが多い感じだったので、こっちのほうが作品としては綺麗だと思います。
ただ、さらに画素数の多いカメラだと星の流れが気になるかもしれません。
さらに拡大してみましょう。

このレベルまで拡大したら星の流れが目立ってしまいました。
ただ、ここまで拡大して見る機会はほとんどないので問題ないと言えます。
20秒
最後は20秒です。
全体像を見てみましょう。

空がさらに明るくなり、天の川もはっきり見えるようになりました。
ぱっと見ではこれが一番綺麗ですね。
ですが問題は星の形です。
星雲部分を拡大してみます。

15秒のときよりも明らかに流れています。
さすがにこのレベルでは問題がありますね。
インスタとかで画素数が圧縮された状態で見るならいいと思いますが、スマホで拡大して楽しんだりフォトコンテストに出す用には向きません。
星の形が完全に崩壊しています。
2400万画素でこれなので、4000万画素とかになるとさらにひどくなるでしょう。
わし星雲のあたりをさらに拡大してみます。

これはひどいですね…
遠目で見ても星が線になっているのがはっきりわかります。
これではコンテストなどに作品として出せないと思います。
ノイズと星の形のせめぎあい
今回の検証では15秒の勝利でした。
10秒ではノイズ多すぎ、20秒では星の形が崩壊しているのでまともな作品にならなかったですね。
その中間地点をうまく見つける作業がシャッタースピードを決めることなのかもしれません。
では、実際にどのようにシャッタースピードを決めたらいいのでしょうか?
200ルールがおすすめ
私がおすすめしているのが「200ルール」です。
具体的には、
理想のシャッタースピード(秒) = 200 ÷ レンズの焦点距離(mm)
というものです。
例えば私が使っている NIKKOR Z 20mm f/1.8 S は焦点距離が20mmなので200/20=10(秒)のシャッタースピードがおすすめという結果になります。
ただ、200ルールは「星がほとんど流れないシャッタースピード」を求める式です。
少しくらい星が流れてもいいからノイズを減らしたい、という人は少しシャッタースピードを長くしてISOを下げるといいでしょう。
一昔前までは500ルールが使われていたようですが、最近のカメラは画素数が半端なく多いので時代遅れです。
今回の場合、500ルールを使うと500/20=25(秒)のシャッタースピードがいいという結果になってしまいますが、20秒の時点で星の形が崩壊気味になっていたので25秒はおすすめできません。
未だに500ルールがおすすめされることもありますが、特に画素数の多いカメラでは200ルールを使うことをおすすめします。
シャッタースピードを短くしてノイズを抑えるには?
200ルールを紹介しましたが、10秒や15秒のシャッタースピードだと短すぎてノイズまみれになってしまうという人も多いはずです。
そんな人はほぼレンズのf値に原因があります。
f値とは「短時間でどれくらい光を集められるか」を表す能力で、低いほど効率がいいことを表します。
星景写真を撮るならf値は最低でもf2.8, できればf1.8やf1.4をおすすめします。
理由は、f値が高いとシャッタースピードを伸ばさないといけなくなるからです。
シャッタースピードが長いほど星がブレるリスクが上がります。
例えばf4の場合、f2.8の2倍のシャッタースピードが必要になります。
そうなると星の形が伸びて線みたいになり、作品の質が下がってしまいます。
なのでできるだけf値の低いレンズを選びましょう。
NikonのZマウントユーザーなら間違いなく NIKKOR Z 20mm f/1.8 S がおすすめです。
「ノイズを減らしたければISOを下げればいい」という声もありますが、ただISOを下げるだけでは写真が暗くなるだけです。
f値を下げてより多くの光を取り込むことができれば、ノイズもその分減らすことができます。
赤道儀を使えば30秒以上も可能
ただ、高いレンズを買う余裕がない場合もあると思います。
その場合、ポータブル赤道儀を使えば少しコストを抑えることができます。
赤道儀とは歯車を回転させてカメラを回していく装置で、星の動きと同じ速度でカメラを動かすことで星の動きをぴたりと止めてくれる装置です。
赤道儀を付けばシャッタースピードは30秒、1分と伸ばすことができます。
これならf4のレンズでも問題ないですね。
ただ、唯一の欠点が地上の風景がぶれてしまうことです。
赤道儀で星に合わせてカメラを動かしていると、地上の風景に対してカメラだけが動いている状況になります。
なので地上の風景がぶれたり、ぼやけるといった現象が起きてしまいます。
対策としては、地上風景と夜空の星を別々に撮ってあとから合成することです。
特に星を追尾しながら何枚も写真を撮り、あとから重ねることでノイズを劇的に減らすことができます。
このように手間はかかりますが、工夫次第で素晴らしい写真を撮ることができます。
みなさんに合った方法を選んでみてください。
最後に
ここまでで、星景写真や天の川撮影におけるシャッタースピードの重要性を解説してきました。
固定撮影(赤道儀を使わない撮影)であればレンズのf値を下げるしかなく、カメラのノイズ耐性も求められます。
一方、赤道儀を使えば多少安い機材でも時間と手間をかければいい写真が撮れます。
どちらを選んでも正解です。
ぜひ自分に合った方法を選んで星景写真を楽しんでみてください。
では。