都市部など空が暗くない環境で天体写真を撮影する際、画像処理の成果を大きく左右するのがフラット補正です。
特に光害地では空の明るさのムラや光学系の影響が画像に強く現れるため、フラット補正の重要性が格段に増します。
「空が明るいからどうせ綺麗に写らない」とあきらめてしまう前に、まずはこのフラット補正にしっかり取り組んでみてください。
フラット補正が合えば都会からでもいい写真は撮ることができます。
なのでこの記事ではフラット補正の意味や効果、具体的な方法、機材に応じた工夫まで詳しく解説します。
ぜひ最後まで読んでみてください。
Contents
フラット補正とは何か?基本をおさらい
天体写真の画像処理では、撮影時に必ず画像に含まれる「不要な成分」を取り除くためにいくつかの補正処理を行います。
その中の一つが「フラット補正」です。
これは撮影時に光学系やセンサー、フィルターの構造上どうしても生じてしまう以下のようなムラを補正するための処理です:
- 鏡筒やレンズによる周辺減光
- センサーやフィルター表面のゴミやホコリによる影
- フィルターの色ムラや均一性の欠如
- 光学系の特性に由来する微細な明るさの偏り
これらはどれも天体の光とは関係のない不要なムラであり、除去することで天体の淡い構造や背景を自然に仕上げることが可能になります。
逆に、フラット補正が一致しなければ四隅が不自然に明るくなったり、ゴミの影が消えなかったりと悪いこと尽くめです。
フラット補正が必ず合うように頑張りましょう。
光害地でのフラット補正が必須である理由
光害地では空の背景が全体的に明るく、しかも均一ではないことが多いため光学系のムラと空のカブリが複雑に重なり、処理が非常に困難になります。
このような条件下では画像処理の前にできる限り不要なムラを減らしておく必要があり、そのためにフラット補正は欠かせません。
たとえばPixInsightのAutomaticBackgroundExtractor(ABE)やGradientCorrection(GC)ツールで背景のムラを補おうとしても、周辺減光やセンサー由来の影は正確には取り切れません。
ABEやGCは主に色被り補正に対応していて、フラット補正を修正する用ではないからですね。
それどころか対象の星雲や銀河を「背景の一部」とみなして削ってしまい、不自然な画像になってしまうことさえあります。
そのため背景補正ツールに頼る前に、まずはフラット補正を正しく行っておくことがすべての処理の土台になるのです。
これは光害地だけでなく、天体写真をやるうえではフラット補正は一生ついてきます。> <
なのでフラット補正には撮影と同じだけの情熱をかけるようにしてください。
フラット補正と光害フィルターはセットで考える
光害地ではナトリウム灯やLEDなどの人工光が空全体に広がっており、これが画像のコントラストを著しく損ないます。
この問題に対処するため光害カットフィルターを使用することが一般的です。
一部の光害カットフィルターは光の波長を削りすぎたり色味を変えることで写真をより悪化させてしまいますが、私がおすすめするのは Optolong L-Quad Enhance フィルターです。
このフィルターは「必要十分な光害成分だけを削る」というもので、ほとんどカラーバランスを壊すことなく色被りを激減させてくれる魔法のフィルターです。
ですが日本国内では全然有名になっていなくて、ネットで紹介しているのは私くらいです。
一度使ってみると驚くと思います。
フラット補正が劇的に楽になりますよ。
フラット画像の撮り方:機材に合わせた工夫
ここで、問題となるのはフラット画像の撮り方です。
フラット画像は「フラットフレーム」と呼ばれ、ライトフレーム(天体の画像)と同じ光学系、同じ構成、同じフォーカス位置、同じフィルターで撮影する必要があります。
カメラを回したり望遠鏡からカメラを外した瞬間位置が合わなくなり、ゲームオーバーになるので絶対にやめましょう。
ライトフレームを撮影し終わった直後にフラットフレームを撮影し、その後バイアスやダークを撮影するのが一番おすすめです。
以下に代表的な撮影方法を紹介します:
- スカイフラット:夜明け前や薄明時の空を使う。自然な光源を利用できるが時間制限がある。
- LEDパネルフラット:タブレットやLEDパネルを望遠鏡に当てる。安定して使えるが、均一性に注意。
- ゴミ袋フラット:白いゴミ袋や不織布を鏡筒にかぶせて夜中に撮影。手軽でとくに反射望遠鏡で効果的。
屈折望遠鏡の場合は青空やライトパネル、ゴミ袋いずれの方法でもいい結果が得られやすいですが、反射望遠鏡ではゴミ袋フラットがもっとも効果的です。
詳しくはこの記事をご覧ください。
フラット撮影時のコツ:露出とヒストグラム
次に重要なのがフラットフレームのヒストグラムです。
フラット補正の精度を高めるためには、フラットフレームのヒストグラムがライトフレームの明るさとだいたい同じになるように露出を調整するのが基本です。
厳密に一致させる必要はありませんが、あまりにも明るすぎたり暗すぎたりすると、補正が過剰または不十分になってしまうことがあります。
また、一部の冷却CMOSカメラでは露出が短すぎるとアンプグローやセンサー特性が影響して正確な補正ができないことが報告されています。
とくに3秒未満では不安定になるという話もあり、3秒以上を目安にフラットフレームを撮るのが安心です。
ただ、そうなると青空フラットは使えなくなりますね。
まずは青空・LEDパネル・ゴミ袋の全種類を試してみるのはどうでしょうか。
フラットフレームの枚数はどれくらい必要?
ライトフレームやダークフレームと同様に、フラットフレームも複数枚撮影してスタック(加算平均)することでノイズを減らすことができます。
しかしライトと違って高S/N比が求められるわけではないため、枚数はそれほど神経質になる必要はありません。
一般的には60枚程度撮っておけば十分ですが、時間に余裕がないときは5分程度の撮影で十分な精度が得られます。
むしろ、フラット撮影の条件を揃えることのほうが重要です。
たとえば撮影時と同じ構成・角度・ピントで撮ること、光源が均一であることなどが、フラット補正の成否を分けます。
そのため、たくさん撮るよりも正確に撮ることを意識しましょう。
フラット補正が難しいケース:ASI294MC Pro の場合
私が使っていた ZWO ASI294MC Pro など一部のカメラでは、センサー自体に現れているシミみたいなムラ(パターンノイズや色ムラ)が現れることがあります。
これらは通常のフラット補正では完全に取り除くことができず、補正は不可能ではありませんが非常に困難です。
フラットの条件を厳密に揃えたり、カスタムのキャリブレーション方法を試す必要があるなど手間がかかります。
このようなカメラを使う場合はセンサーの特性を事前に把握し、対策を講じることが求められます。
私の場合は様々な方法を試しましたが、やはりゴミ袋フラット(夜中にゴミ袋を被せてライトフレームと露出を合わせる)が一番うまく行きました。
撮影時間が10分ほどなくなりますが、やってみる価値はあると思います。
セルフフラットの使いどころには注意
最近はセルフフラットと呼ばれる処理方法も注目されています。
これはライト画像から背景成分を抽出して疑似的にフラット補正を行う方法です。
特に銀河や球状星団など、天体が画面の一部に限られていて背景が広く取れる画像には有効な手法です。
しかし、星雲のように画像全体にぼんやり広がっている対象ではセルフフラットは逆効果です。
天体の淡い部分を不要な背景として削ってしまうリスクがあるため、星雲主体の撮影ではセルフフラットを避けるのがいいでしょう。
それに、セルフフラットよりもちゃんとフラットを撮ったほうが遥かに質の良い写真が出来上がります。
楽をせずに正攻法でいきましょう。
まとめ:光害地こそフラット補正にこだわるべき!
光害地での天体写真では「空が明るいからあきらめる」必要はありません。
正しい処理と工夫を重ねることで、光害地でも十分に美しい天体写真を撮ることができます。
そして、それにはフラット補正が必要不可欠です。
背景のムラを最初から排除しておくことで後の処理が格段に楽になり、完成度の高い仕上がりが目指せます。
- 撮影機材に合ったフラットの撮り方を工夫する
- 露出やヒストグラム、露光時間にも配慮する
- センサー特性を理解し、適切に対応する
- セルフフラット補正の限界を理解する
これらを意識するだけでも画像処理のストレスが大きく減り、満足度の高い一枚に近づくはずです。
ぜひ次の撮影からはフラット補正の質にこだわってみてください。
この記事も参考になると思います。
では。

















