即興で書いた短編を公開するシリーズ、「即興文学」です。
今日は「北斗七星のジグソーパズル」をお届けします。
本文
告白は私のほうからした。
彼は身長が高くてイケメンで、勉強もスポーツもできる。
周りの子たちからは「自慢の彼氏だね〜」「大切にしなよ」と言われていた。
付き合ってから1ヶ月、彼の家でお泊まりをしていたとき、事件が起きた。
私と彼がマリオカートをして遊んでいたとき、彼は負けてばっかりだった。
「ちょっと〜、負けてばっかりだったら男らしくないよ?」
私がそう言った瞬間、彼は豹変した。
ゲームのコントローラーを私に投げつけ、私につかみかかって平手打ちを繰り返してきた。
「ふざけんな!なにが男らしくないだ!お前は俺に黙って従っていればいい!」
それから私は彼が怖くなった。
「今日の夜、空いてるよな?俺の部屋に来い。来なかったら、わかるな」
そんなLINEが毎週来た。
彼はふたりきりになると乱暴になった。
まるで私を物のように扱った。
あるとき、私が「今日は体調悪いから、行けない。ごめんね」と言った。
そのとき私は39℃の熱で学校を休んでいた。
彼は何度も電話してきた。
「電話出ろ!!出ないとどうなるかわかってんだろうなぁ?」
「おいふざけんな!」
そんなメッセージでLINEのバッジが99を超えた。
私は恐る恐る電話に出た。
彼は怒り狂って私を罵倒し続けた。
「お前は所有物なんだから俺の欲しい時に来い」
「お前の仕事は俺の欲を発散すること」
「黙って従え。できないなら住所ばらまくぞ」
3時間後、電話は終わった。
私はそれからずっとずっと泣き腫らしていた。
母がやってきた。
「どうしたの?何かあった?」
私は何も言えなかった。
それから彼は1週間に3回は部屋に来いと言ってきた。
私は黙って従うようになった。
やることは決まっている。
その度に私の電池の残量は減っていった。
そして私は、家にあった風邪薬20粒を一気飲みした。
母によると、私は部屋でぐったりしていたらしい。
そして私は医療保護入院になった。
医師は言った。
「ここに彼氏は来れません。安心してください。まずはゆっくり休みましょうね」
でも、私は休めなかった。
「お前は俺の言うことさえ聞いてればいい!!」と言って分厚い参考書を投げられたこと。
「今日、行きたくない」と言って何時間も「ゴミだ」「死ねばいい」「消えちまえ」と言われたこと。
私は誰もいない病室でずっと泣いていた。
「あのとき、死んでればよかった…」
私はその日の夜ご飯を一口も食べなかった。
あるとき、リハビリでジグソーパズルを組み立てることになった。
「これは北斗七星と富士山のジグソーパズルだよ」
看護師さんがそう言った。
完成画像は、とても綺麗だった。
左右対称の富士山。
下に広がる街明かり。
そして、その上に輝く7つの星。
「500ピース。毎日少しずつ、埋めていこうね」
私は初めてジグソーパズルを触った。
「こんなの、どうやって組み立てるんですか?途方もないですよ…」
看護師さんは言った。
「まずは端っこから攻めるんだよ。端っこはわかりやすい。端っこさえ埋まれば、そこからどんどん埋められるよ」
私は四隅のピースを探した。
あった。
「たぶんこれは左上…」
そしてどんどんピースが埋まっていった。
「見てください!端っこ全部埋まりました!」
「すごいねー!早いほうだよ!才能あるかもね!」
私は初めて、私のセンスに気づけた気がした。
数日後、最後のピースが残った。
隣にはこの前の看護師さんがいた。
「これで終わりっと…」
「できた…できました!!ついにできました!」
「すごいじゃん!がんばったね!えらいえらい」
私は初めて「がんばったね」と言われた。
彼氏にも、「従え」ではなく「がんばったね」と言ってほしかったのかもしれない。
毎回部屋に呼ばれるたび、怒鳴られるのが怖くてドアの前で立ち尽くしていた。
でも今は違う。
私はジグソーパズルをがんばったんだ。
そして出来上がった風景を見た。
「この北斗七星って、実在するんですか?」
「もちろん。私もこの前長野で見てきたけど、すごかったよ。想像以上に大きかった。星たちが私を囲んで笑い合ってたよ」
「そうなんだ… 私でも見れますか?」
「うん。見れるよ。退院したら、北斗七星を見よう。それを目標にしてみない?」
「はい。北斗七星のために、がんばってみます」
私はその日の夜ご飯を残さず食べた。


















