即興文学

即興文学#4 -北斗七星のジグソーパズル-

即興で書いた短編を公開するシリーズ、「即興文学」です。

今日は「北斗七星のジグソーパズル」をお届けします。

この作品にはデートDVの描写が含まれます。過去に似たような被害を受けた方はフラッシュバックする恐れもあります。ご自身の体調とよく相談して読んでみてください。なお、この作品は絶望の中にある少しの希望を描いたものです。

本文

告白は私のほうからした。

彼は身長が高くてイケメンで、勉強もスポーツもできる。

周りの子たちからは「自慢の彼氏だね〜」「大切にしなよ」と言われていた。

付き合ってから1ヶ月、彼の家でお泊まりをしていたとき、事件が起きた。

私と彼がマリオカートをして遊んでいたとき、彼は負けてばっかりだった。

「ちょっと〜、負けてばっかりだったら男らしくないよ?」

私がそう言った瞬間、彼は豹変した。

ゲームのコントローラーを私に投げつけ、私につかみかかって平手打ちを繰り返してきた。

「ふざけんな!なにが男らしくないだ!お前は俺に黙って従っていればいい!」

それから私は彼が怖くなった。

「今日の夜、空いてるよな?俺の部屋に来い。来なかったら、わかるな」

そんなLINEが毎週来た。

彼はふたりきりになると乱暴になった。

まるで私を物のように扱った。

あるとき、私が「今日は体調悪いから、行けない。ごめんね」と言った。

そのとき私は39℃の熱で学校を休んでいた。

彼は何度も電話してきた。

「電話出ろ!!出ないとどうなるかわかってんだろうなぁ?」

「おいふざけんな!」

そんなメッセージでLINEのバッジが99を超えた。

私は恐る恐る電話に出た。

彼は怒り狂って私を罵倒し続けた。

「お前は所有物なんだから俺の欲しい時に来い」

「お前の仕事は俺の欲を発散すること」

「黙って従え。できないなら住所ばらまくぞ」

3時間後、電話は終わった。

私はそれからずっとずっと泣き腫らしていた。

母がやってきた。

「どうしたの?何かあった?」

私は何も言えなかった。

それから彼は1週間に3回は部屋に来いと言ってきた。

私は黙って従うようになった。

やることは決まっている。

その度に私の電池の残量は減っていった。

そして私は、家にあった風邪薬20粒を一気飲みした。

母によると、私は部屋でぐったりしていたらしい。

そして私は医療保護入院になった。

医師は言った。

「ここに彼氏は来れません。安心してください。まずはゆっくり休みましょうね」

でも、私は休めなかった。

「お前は俺の言うことさえ聞いてればいい!!」と言って分厚い参考書を投げられたこと。

「今日、行きたくない」と言って何時間も「ゴミだ」「死ねばいい」「消えちまえ」と言われたこと。

私は誰もいない病室でずっと泣いていた。

「あのとき、死んでればよかった…」

私はその日の夜ご飯を一口も食べなかった。

あるとき、リハビリでジグソーパズルを組み立てることになった。

「これは北斗七星と富士山のジグソーパズルだよ」

看護師さんがそう言った。

完成画像は、とても綺麗だった。

左右対称の富士山。

下に広がる街明かり。

そして、その上に輝く7つの星。

「500ピース。毎日少しずつ、埋めていこうね」

私は初めてジグソーパズルを触った。

「こんなの、どうやって組み立てるんですか?途方もないですよ…」

看護師さんは言った。

「まずは端っこから攻めるんだよ。端っこはわかりやすい。端っこさえ埋まれば、そこからどんどん埋められるよ」

私は四隅のピースを探した。

あった。

「たぶんこれは左上…」

そしてどんどんピースが埋まっていった。

「見てください!端っこ全部埋まりました!」

「すごいねー!早いほうだよ!才能あるかもね!」

私は初めて、私のセンスに気づけた気がした。

数日後、最後のピースが残った。

隣にはこの前の看護師さんがいた。

「これで終わりっと…」

「できた…できました!!ついにできました!」

「すごいじゃん!がんばったね!えらいえらい」

私は初めて「がんばったね」と言われた。

彼氏にも、「従え」ではなく「がんばったね」と言ってほしかったのかもしれない。

毎回部屋に呼ばれるたび、怒鳴られるのが怖くてドアの前で立ち尽くしていた。

でも今は違う。

私はジグソーパズルをがんばったんだ。

そして出来上がった風景を見た。

「この北斗七星って、実在するんですか?」

「もちろん。私もこの前長野で見てきたけど、すごかったよ。想像以上に大きかった。星たちが私を囲んで笑い合ってたよ」

「そうなんだ… 私でも見れますか?」

「うん。見れるよ。退院したら、北斗七星を見よう。それを目標にしてみない?」

「はい。北斗七星のために、がんばってみます」

私はその日の夜ご飯を残さず食べた。

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