即興文学

即興文学#12 -なんもない田舎で星を見た-

即興で書いた短編を公開するシリーズ、「即興文学」です。

今日は「なんもない田舎で星を見た」をお届けします。

本文

私が住んでいるのは岐阜県の山奥。

高校までは自転車で30分。

一番近いコンビニも自転車で15分の位置にある。

部活でヘロヘロになっても、そこから自転車を漕いで家まで帰らないといけない。

Instagramを見ていると、クレープやパンケーキの写真がたくさん出てくる。

「いいな…。私なんか、スタバなんて山降りないとないよ」

高校は数年前に合併した。

これからどんどん小さくなっていくと言われている。

「こんな山奥にいてもやることないし、早く抜け出したい」

私は今高校1年生。

「キラキラJK」を夢見ていたが、周りには田んぼしかない。

部活の仲間と寄るのは駅の近くにある昔ながらの喫茶店。

それだけだった。

「私も東京の子たちみたいに遊びたかったな…。やることないし、なんでこんな町に生まれてきちゃったんだろう」

家に帰っても、やることは少ない。

宿題をやって友達とLINEして、SNSを見て、終わり。

「私ってなんのために生きてるんだろう…。ほんとに人生つまんない」

Xはもうやめた。

Xのタイムラインには攻撃的な政治系のツイートばっかり流れてくるからだった。

それを見るたび、私の心は荒んでいった。

私には推しはいない。

だが、推しがいる都会の子たちが強烈に羨ましかった。

「私なんか名古屋に行くだけでも3時間くらいかかるのに」

この山奥には何もない。

友達も大学生になったら名古屋の大学に行くと言っていた。

「あと2年間もこんなところにいるの?もうやだ…」

自分の部屋の窓を少し開けてみた。

もう夜だった。

カエルの鳴き声がうるさかった。

「うわ、うるさ。 やっぱ田舎はやだ」

私は窓を閉め切って、布団に潜り込んだ。

「Instagramの通知がついてる」

アプリを開くと、DMが1件来ていた。

私は最近、東京に住んでいるある女の子と会話している。

私の投稿にコメントをくれて、そこから話すようになった。

「最近調子はどう?」

私は少し迷った。

「うーん、やることないから暇かも。勉強する気にもならないし。やっぱり東京が羨ましい」

「そっかー。田舎だと遊べる場所少ないもんね」

私は東京に行ったことがない。

きっとそこは流行の最先端を行っていて、おしゃれなカフェがたくさんあるのだろう。

「でも、私は東京出たいと思ってる」

え?

意外だった。

「だって東京うるさいもん。電車はいつも混んでるし、ポイ捨て多いし。それに、星が全然見えないんだよね」

「そうなの…?」

「うん。東京だと一等星も見えないときあるよ。そっちは星たくさん見れるんでしょ?」

私は星を見たことがなかった。

今まで気に留めていなかった。

「え、星なんて見たことない」

「それはもったいないよ!晴れてたら外に出てみ。すごい数の星が見えると思う」

「もったいない」ということを初めて聞いた。

「そうなんだ。ちょっと見てみる」

「うん!見れたら教えてね」

私はパジャマを着替えて外に出た。

親には「星を見てくるね」と言った。

やっぱりカエルの鳴き声がうるさかった。

少し街灯から離れた場所まで自転車で行くとーー

空を見上げたとき、無数の星々が光っていた。

私はしばらく言葉を失った。

「え、これ全部星!?すごい…」

空一面に光の点がぎゅうぎゅうに敷き詰められているようだった。

私は星の名前なんてひとつも知らなかった。

今まで興味がなかった。

だが、このときは星の名前が知りたいと思った。

中でも一際明るい星がひとつあった。

「あの明るい星、何ていうんだろう…」

私はスマホで空を撮ってみた。

撮った写真を見てびっくりした。

「え、全然写ってない。真っ黒じゃん」

私は彼女にメッセージを送った。

「今すごい数の星が見れてるよ!でも、スマホじゃ撮れなかった」

すぐに返信が来た。

「やっぱり!?いいなー。東京じゃなんも見れないからね。スマホじゃ厳しいかも。カメラがあったら撮れるかもね」

「カメラがあれば撮れるの?」

「うん。うちのお兄ちゃんはなんかカメラで天の川撮ってたよ」

「そうなんだ」

私はしばらく夜空を見上げていた。

「ねえ、私が撮った星の写真、見たい?」

「もちろん!岐阜の山奥なんてめっちゃ暗いだろうから、天の川もバンバン写ると思うよ。うちのお兄ちゃんだったらめっちゃ羨ましがると思うな」

そのとき、私は初めて私の環境を誰かが羨ましがるということを知った。

「この町も悪いことばかりじゃなかったんだね」

私はしばらく夜空を見上げていた。

「わかった。写真、やってみるね。まずはカメラを買ってみる」

「いいじゃん!楽しみにしてるよ」

私は家に帰った。

そして、駅前の喫茶店のバイトに応募した。

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