即興で書いた短編を公開するシリーズ、「即興文学」です。
今日は「なんもない田舎で星を見た」をお届けします。
本文
私が住んでいるのは岐阜県の山奥。
高校までは自転車で30分。
一番近いコンビニも自転車で15分の位置にある。
部活でヘロヘロになっても、そこから自転車を漕いで家まで帰らないといけない。
Instagramを見ていると、クレープやパンケーキの写真がたくさん出てくる。
「いいな…。私なんか、スタバなんて山降りないとないよ」
高校は数年前に合併した。
これからどんどん小さくなっていくと言われている。
「こんな山奥にいてもやることないし、早く抜け出したい」
私は今高校1年生。
「キラキラJK」を夢見ていたが、周りには田んぼしかない。
部活の仲間と寄るのは駅の近くにある昔ながらの喫茶店。
それだけだった。
「私も東京の子たちみたいに遊びたかったな…。やることないし、なんでこんな町に生まれてきちゃったんだろう」
家に帰っても、やることは少ない。
宿題をやって友達とLINEして、SNSを見て、終わり。
「私ってなんのために生きてるんだろう…。ほんとに人生つまんない」
Xはもうやめた。
Xのタイムラインには攻撃的な政治系のツイートばっかり流れてくるからだった。
それを見るたび、私の心は荒んでいった。
私には推しはいない。
だが、推しがいる都会の子たちが強烈に羨ましかった。
「私なんか名古屋に行くだけでも3時間くらいかかるのに」
この山奥には何もない。
友達も大学生になったら名古屋の大学に行くと言っていた。
「あと2年間もこんなところにいるの?もうやだ…」
自分の部屋の窓を少し開けてみた。
もう夜だった。
カエルの鳴き声がうるさかった。
「うわ、うるさ。 やっぱ田舎はやだ」
私は窓を閉め切って、布団に潜り込んだ。
「Instagramの通知がついてる」
アプリを開くと、DMが1件来ていた。
私は最近、東京に住んでいるある女の子と会話している。
私の投稿にコメントをくれて、そこから話すようになった。
「最近調子はどう?」
私は少し迷った。
「うーん、やることないから暇かも。勉強する気にもならないし。やっぱり東京が羨ましい」
「そっかー。田舎だと遊べる場所少ないもんね」
私は東京に行ったことがない。
きっとそこは流行の最先端を行っていて、おしゃれなカフェがたくさんあるのだろう。
「でも、私は東京出たいと思ってる」
え?
意外だった。
「だって東京うるさいもん。電車はいつも混んでるし、ポイ捨て多いし。それに、星が全然見えないんだよね」
「そうなの…?」
「うん。東京だと一等星も見えないときあるよ。そっちは星たくさん見れるんでしょ?」
私は星を見たことがなかった。
今まで気に留めていなかった。
「え、星なんて見たことない」
「それはもったいないよ!晴れてたら外に出てみ。すごい数の星が見えると思う」
「もったいない」ということを初めて聞いた。
「そうなんだ。ちょっと見てみる」
「うん!見れたら教えてね」
私はパジャマを着替えて外に出た。
親には「星を見てくるね」と言った。
やっぱりカエルの鳴き声がうるさかった。
少し街灯から離れた場所まで自転車で行くとーー
空を見上げたとき、無数の星々が光っていた。
私はしばらく言葉を失った。
「え、これ全部星!?すごい…」
空一面に光の点がぎゅうぎゅうに敷き詰められているようだった。
私は星の名前なんてひとつも知らなかった。
今まで興味がなかった。
だが、このときは星の名前が知りたいと思った。
中でも一際明るい星がひとつあった。
「あの明るい星、何ていうんだろう…」
私はスマホで空を撮ってみた。
撮った写真を見てびっくりした。
「え、全然写ってない。真っ黒じゃん」
私は彼女にメッセージを送った。
「今すごい数の星が見れてるよ!でも、スマホじゃ撮れなかった」
すぐに返信が来た。
「やっぱり!?いいなー。東京じゃなんも見れないからね。スマホじゃ厳しいかも。カメラがあったら撮れるかもね」
「カメラがあれば撮れるの?」
「うん。うちのお兄ちゃんはなんかカメラで天の川撮ってたよ」
「そうなんだ」
私はしばらく夜空を見上げていた。
「ねえ、私が撮った星の写真、見たい?」
「もちろん!岐阜の山奥なんてめっちゃ暗いだろうから、天の川もバンバン写ると思うよ。うちのお兄ちゃんだったらめっちゃ羨ましがると思うな」
そのとき、私は初めて私の環境を誰かが羨ましがるということを知った。
「この町も悪いことばかりじゃなかったんだね」
私はしばらく夜空を見上げていた。
「わかった。写真、やってみるね。まずはカメラを買ってみる」
「いいじゃん!楽しみにしてるよ」
私は家に帰った。
そして、駅前の喫茶店のバイトに応募した。


















