即興文学

即興文学#9 -ふたご座はミュートしない-

即興で書いた短編を公開するシリーズ、「即興文学」です。

今日は「ふたご座はミュートしない」をお届けします。

本文

「今日も一睡もできなかったな…」

私は最近、不眠症に悩まされている。

昨日は23時に布団に入ったのに、今は5:43だ。

部屋のカーテンを開けたら、もう空が白んでいる。

「だるい…」

私は眠くないわけではない。

今もすごく眠い。

だが、寝れなかった。

理由はよくわからない。

ただ、最近は疲れても寝れないことが多くなった。

学校に通っているものの、最近は昼間はだるくて何も手につかなくなっている。

昨日は廊下で倒れ込んでしまって保健室に運ばれ、保健室で17時くらいまで寝た。

「昼夜逆転してるじゃん…」

今日は保健室の先生の勧めで学校を休んで精神科に行くことになっている。

「精神科か。正直嫌なんだよね」

私は「精神科」という言葉の響きが嫌だった。

なんか変な人たちが行くイメージ、と思っていた。

「頭がいたいよ…」

昨日は夕方まで少し寝ただけで、ほとんど寝ていない。

私はあくびをした。

でも、寝れなかった。

昨日は体育の授業があった。

私の好きなバレーボールの授業だった。

だが、出れなかった。

ずっと保健室で寝ていた。

最初は友達も心配して、保健室に来てくれていた。

「大丈夫?無理しないでね。なんかあったら話してね」

でも今はその友達からは無視されている。

気づけば「あいつ、わざと授業サボっているらしい」という噂が流れていた。

昔は私の周りには明るい子が3人くらいいて、いつもクラスの中で盛り上がってた。

「あいつらうるさいなー笑」と男子たちからも笑われていた。

だが、昨日私は保健室でずっと寝ていることしかできなかった。

誰も来なかった。

授業ノートも、見せてくれる人がいなくなった。

どのくらい授業が進んでいるのかはわからない。

「私も好きで休んでるわけじゃないのに…」

私は惨めになって、泣いてしまった。

なんとなくInstagramを開いた。

「あ、あの子のハイライトが消えてる。前は見れてたのに」

きっとストーリーやハイライトを非表示にされたのだろう。

「なんでそこまでするの?ひどすぎるよ…」

私はInstagramを閉じ、また泣いてしまった。

スマホに反射する私の姿は髪がぐしゃぐしゃで目元が腫れていて、不細工だった。

「もういなくなりたいな」

そんなことをつぶやいた。

「診察は11:00からか… 行きたくない。でももう予約しちゃったしな」

私は部屋を出て、顔を洗った。

「もうメイクもめんどくさい。マスクしてこ」

昔は新作コスメを集めてた。

今はもうメイクなんてしなくなった。

「いってきます」

私は少し早めに家を出た。

病院は遠い。

電車を何個も乗り継いで行かないといけなかった。

そして最寄りのバス停に着いた。

「ここ…?」

私は地図アプリを頼りに病院に向かった。

「この病院だ」

病院に着いた。

「初診の方は問診票を書いてください」

問診票を渡された。

「え、こんなに書くの…?」

書く項目が30個以上ある。

「最近の症状は?」とか「普段飲んでる薬は?」とか「妊娠してますか?」とか。

「めんどくさ…」

私はなんとなく全部埋めた。

そして受付に渡した。

「どんな先生なんだろ… 調べたら怖い先生もいるみたい。怒鳴られたらどうしよ」

私は不安だった。

「もうすぐ、か」

名前が呼ばれた。

「こんにちは。よろしくお願いします」

そこには白衣を着た女性医師がいた。

女医さんか… 怖くないといいな。

「よろしくお願いします」

「問診票を見ましたが、最近は不眠でお悩みなんですか?」

「はい、昨日は一睡もできなくて、今もだるいです…」

私はそれから自分のことを正直に話した。

怒鳴られなかった。

優しそうでよかった。

「そうなんですね…。いつから眠れなくなったんですか?」

「よく覚えてないです。特にきっかけもなかったのに」

「なるほど…。最近ストレスは感じていますか?」

「はい。最近は保健室で休みがちになって、友達から無視されるようになってしまいました。そのせいで余計に眠れなくなってます」

「それは大変でしたね」

それから色々話は続いた。

「不眠症を改善するのは難しいので、すぐには治らないと思います。頓服も出しておくので眠れないときは飲んでみてください。眠れないときは何をされてますか?」

「寝れないとき… Instagramをずっと見て泣いてます」

「それはよくないですね。そういえば星、見たことありますか?」

「星ですか?」

星なんて初めて聞いたな…

「この季節はオリオン座が見えるんですよ。寝れないときはInstagramじゃなくて星空を眺めてみてください。星空はミュートもブロックもしてこないですよ」

「そうなんですね…」

先生が何やら後ろから本を取り出している。

「これがオリオン座。見たことありますか?」

そこには砂時計のような星座があった。

うっすら2本の腕が生えている。

「え、見たことないです!こんなのがあるんですか?」

「はい。あるんですよ。晴れた夜には見てみてくださいね」

へぇ…。

診察が終わった。

私はスマホでオリオン座を調べた。

「この季節なら0時くらいに南に見えるのか…」

帰りに薬局に寄って薬をもらった。

「これを飲めば、寝れるのかな。まあ飲み過ぎはよくないって言ってたし今日はいっか」

それから私は自分の部屋に戻り、タブレットに星図アプリをダウンロードした。

「すごい…」

そこには時間ごとの星の位置が表示されていた。

「これがオリオン座で、その左上にはふたご座?こっちはおうし座があるんだね」

私の星座はふたご座だった。

「こんな形してるんだ… 初めて知った」

その夜、私は布団に入らなかった。

「星、見れるのかな」

私は家のベランダに出てみた。

そこには、あのお医者さんが見せてくれたのと同じ星座が輝いていた。

「あれがオリオン座だ!」

私は手元のスマホと照らし合わせる。

「あれがおうし座?」

おうし座の真ん中にはきらきらが集まってる。

「あの赤い星がアルデバランで、その周りがヒアデス星団か…」

肉眼でも星のきらきらがはっきり見えた。

「あ、あの青いキラキラはなに?」

アルデバランのさらに上らへんに変な青いキラキラがあった。

「え、すばるっていうんだ!きれい…」

私はしばらくその青いキラキラを見つめていた。

「で、ふたご座はどこ…?」

私はアプリを頼りにふたご座を探した。

「あった!あれだ!」

そこには、本当にふたごが並んでいるかのような星の並びがあった。

「すごい… 私ふたご座だったけど、今まで見てこなかった」

私はその星の並びを見つめていた。

「あれがポルックスで、もう片方がカストルって言うんだね」

ポルックスが少し黄色っぽくて、カストルが白っぽい。

「きれいだね」

私はしばらくそのふたご座を見つめていた。

Instagramのアイコンを見たら、いつも通り通知ゼロだった。

でも、それでいいと思った。

「星空はミュートもブロックもしないもんね」

この夜、私は初めて寝なくてよかったと思った。

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