即興で書いた短編を公開するシリーズ、「即興文学」です。
今日は「オリオン大星雲を探して」をお届けします。
本文
ある1月のこと。
私には学校に居場所がなかった。
冬休み前、私は仲良しのいつメンと教室で騒いでいた。
「今日の帰り、みんなでプリ撮りに行こ!」
私がそう言うと、みんなうれしそうに笑ってくれた。
今は違う。
私の席の周りには誰もいない。
いつメンは私なしでいつも通り騒いでいた。
「やっほー!元気?」
私は勇気を振り絞って声をかけた。
「あ、元気だよー?」
そこから私には一言も話が振られなかった。
私は席に戻り、4人で撮ったプリクラの写真を見つめていた。
家に帰ったら、リビングで泣いてしまった。
「もう私の居場所なんて、ない…」
私のスカートは涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
「私、このままひとりぼっちなのかな」
そこに兄がやってきた。
「どうした?泣くなんて。何かあった?」
私はしばらく泣いたままで返事ができなかった。
「つらいこと、あった?」
私は、「うん。今日、いつメンにはぶられた」と声にもならない声で言った。
兄は私の背中をさすってくれた。
「もう、私の居場所なんてないよ… このまま消えちゃいたいよ」
兄は悲しそうな顔をしていた。
そしてスマホを見せてくれた。
「人生、うまくいかないことも多いよ。今日、オリオン大星雲見に行ってみる?」
「オリオン大星雲?なにそれ?」
兄のスマホには、雲のように広がるオリオン大星雲が写っていた。
「すごい… 誰が撮ったの?」
「俺が天文サークルの合宿で撮ったやつ。ここからでも見えるよ」
私は「オリオン大星雲を見たい…」と思った。
「どうする?来る?」
私はうなずいた。
河川敷にふたりで腰掛けた。
「オリオン座って、あれ?」
そこには左上だけ赤っぽい、砂時計のような星座があった。
「そうだよ。真ん中に三つ星があるでしょ」
砂時計の真ん中には星が一直線に3つ走っていた。
「ほんとだ… きれい」
「オリオン大星雲はその三つ星の、少し下あたりにある。双眼鏡で探してみ」
私はオリオン大星雲を一目見たいと思って一生懸命探した。
「うーん、見つからないよ」
「そこ、方向違うんじゃない?思い込みはよくない。見てない方向を探すんだ」
私ははっとして双眼鏡を一瞬目から離した。
「ねえ、私にも見えてない方向ってあると思う?」
兄は少し悩んだ。
「うん。お前は人生のまだ半分も見てない。この世界はまだまだ知らないことであふれてる。視野を広げれば大切なものは見つかるさ」
私はまるで自分のことを言われているかのように思った。
私はあの3人にはぶられた。
でも、私にはその3人しか見えてなかったのかもしれない。
「オリオン大星雲、見つけてみる?」
私は「うん」とうなずいた。
「まずはベテルギウスを見つけろ。明るくて赤い星だ。」
私はかなり苦戦した。
「えー、見つからないよ?」
「もっと上だ。ゆっくり動かして星を見つけてみ」
「あった!赤くて明るいの、見つけたよ!」
「それがベテルギウスだ。そこから少しずつ降りていけば、三つ星に辿り着けるはずだ」
私は双眼鏡を少しずつ下に向けていった。
「もう一個明るい星が見えたよ?なんか白っぽい」
「それがアルニタクかアルニラムだと思う。そこからもう少し下に降りるんだ」
私はさらにゆっくりと双眼鏡を下に向けていった。
そして、ついに見つけた。
「あ!お兄ちゃん!なんか白くてもくもくしてるやつあったよ!」
「それがオリオン大星雲だ」
私はそのオリオン大星雲を見ていた。
正直、兄が見せてくれた写真のように色がついていたわけではなかった。
ここは都内だ。
光のしみのようにしか見えなかった。
でも、本当にあったんだ。
「すごい…」
兄はこう言った。
「オリオン大星雲、すごいだろ?お前にはまだまだ見せたい星雲とか銀河がある。でも、めそめそしてるやつには見せられない」
私は兄のほうを見た。
「まだまだたくさん星雲、あるの?」
「ああ、いっぱいあるさ。夏になったら干潟星雲を見せてやるよ」
私は少しだけ笑顔になった。
「少しだけ、生きてみる?」
私はほんの少しうなずいた。



















