即興で書いた短編を公開するシリーズ、「即興文学」です。
今日は「南十字星と拒食症の少女」をお届けします。
本文
私は今、石垣島の南の砂浜に立っている。
「南十字星、見えるかな」
南十字星。
それは、日本の限られた地域で限られた時間にしか見えないという、幻の星座。
私はそれをどうしても見たかった。
「あれ?」
そこには上がオレンジ色で、下3つが青白い十字架のような星の並びが水平線すれすれにあった。
「あれだ!!」
私は星座アプリと照らし合わせた。
一番上の星だけオレンジ色。
ガクルックスと言うらしい。
「ほんとうにこんなものが…」
思えば、私は2ヶ月前から最近まで入院していた。
きっかけはある友人の一言。
「最近ちょっと太ったね。ダイエットしてみたら?」
そこから私はダイエットに夢中になった。
「朝ごはんいる?」
私はいらないと答えた。
体重は45kg, 43kg, 40kg, 38kg, … とどんどん減っていった。
あるとき、私は学校の廊下で教科書の束を抱えたまま崩れ落ちた。
「大丈夫!?ちょっと、誰か先生に…」
気づけば私は病院で腕に注射針を刺されていた。
「血液検査の結果、あなたは重度の栄養失調だと診断されました。このままではまたいつ倒れてもおかしくないので入院が決まりました」
え、なんで?
なんでなんで…?
そこからは地獄の日々が始まった。
「私、ごはん食べたくない…」
看護師の人が30分以上そばにいてくれた。
でも食べられなかった。
あるとき、ご飯にはうどんがでた。
私は麺類が大嫌いだった。
私はその皿を床に投げつけた。
食べ物が床にぶちまけられた。
「ちょっと!!あっ、床拭かないと…」
私はひたすら泣いていた。
「食べ物を無駄にしちゃった。もう私なんていないほうがましだ」
私はそこからずっと嗚咽していた。
気づけば夕飯の時間になっていた。
私はびしょびしょになった枕を見て、「もう消えたい」とだけつぶやいた。
看護師の人がやってきた。
「今日の昼、大変だったね」
私はまた泣き出してしまった。
看護師の人は背中をさすってくれた。
看護師の人は言った。
「ねえ、南十字星って知ってる?」
なにそれ?
私は「しらない」と言った。
彼女は写真を見せてくれた。
「これ、私が撮ったやつ。水平線すれすれにあるでしょ」
「ほんとだ」
私はその姿に愕然とした。
「こんなものがあるなんて…」
「ねえ、退院したら南十字星が見れるよ」
「え、私でも見れるの!?」
「うん。石垣島からなら見れるよ。でも、退院できなかったらずっと見れないよ」
私はびっくりした。
退院できなかったら、ずっと見れない…
「どうする?少しがんばってみる?」
私は少しだけうなずいた。
そして、その夜のごはんを3口だけ食べた。
「そんなこともあったな…」
私は夜風にあたりながらそんなことを思っていた。
不思議と涙は出なかった。
「ありがとう」
私はスマホで南十字星を撮ってみた。
「なんだ、全然写ってないじゃん。そっか、写真を撮るにはカメラがいるんだ」
私はカメラほしいな、と思った。
「あの看護師さんに、また会いたいな」
今度はふたりで南十字星を見ながら、たくさんお話をしたい。
久しぶりに私はちょっとだけにやっとした。


















