「夜空を眺めて星や惑星をもっと詳しく見てみたい」
そんな思いから望遠鏡選びを始めると「アクロマート」と「アポクロマート」という用語に出会います。
名前は似ていますが、性能も価格も使い方も大きく違います。
この記事では「アポクロマート望遠鏡とは何か」「アクロマートとの違い」「それぞれの使い所」などについてわかりやすく解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
Contents
アポクロマート望遠鏡とは?
アポクロマートとは、色収差を極限まで補正した高性能な望遠鏡のことです。
光は波長(色)によって屈折率が異なるため、普通のレンズでは色ごとに焦点がずれてしまい紫色や青色のにじみが出てしまいます。
これが「色収差」と呼ばれる現象です。
写真に撮るとこんな感じになります。

星の周りに紫色のハロが出てしまっていますね。
これに対してアポクロマートは特殊なガラス素材や設計により、赤・緑・青の3色の波長で焦点を一致させるように作られています。
これによりほぼ完全に色収差を抑え、極めてシャープでクリアな像を結ぶことができます。
アポクロマート望遠鏡で撮影した二重星団がこちらです。

ひとつひとつの星が非常に鋭く、星本来の色が綺麗に出ていますね。
星がピンポイントに鋭く見え、コントラストが高く写真でも非常に美しい仕上がりになるのがアポクロマートの魅力です。
ただし性能が高い分、価格も高めで重量もやや重くなる傾向があります。
アクロマート望遠鏡とは?
アクロマートは比較的シンプルな設計で、色収差をある程度抑えた望遠鏡です。
赤と青の2色については焦点を合わせる補正がされているため、普通の単レンズよりは遥かに良好な像を結びます。
ただし緑の波長などにはズレが残るため、明るい星や月の縁に色にじみが見えることがあります。
天体写真には向かないですね。
それでも月や惑星などを目で観る分には色収差はそこまで気にならないことが多く、初めての天体観測には十分な性能を発揮します。
アクロマートは設計がシンプルなため軽くて持ち運びやすく、価格もアポクロマートに比べて大幅に安価です。
では、アクロマートとアポクロマートはどう使い分けたらいいのでしょう。
アクロマートは眼視用。天体写真にはアポクロマートが必要!
ここがとても重要なポイントです。
まず、アクロマートは眼視に適しています。
眼視とは月、惑星、星団、二重星、銀河などを目で直接観ることです。
望遠鏡をのぞき込んで天体を見る光景は多くの人が想像できると思います。
人間の目はわずかな色収差なら自然に補正してしまうため、観望中に多少の色にじみがあってもあまり気になりません。
眼視目的であれば大口径アクロマートのほうがコスパがよく、口径が大きいので見え方がよくなるでしょう。
そのため月のクレーターや土星の輪、木星の縞模様を観察するにはアクロマートでも十分に楽しめます。
初心者にも扱いやすく、コストパフォーマンスも抜群です。
一方、天体写真を撮る場合にはアポクロマートが必須です。
カメラは人間の目よりはるかに敏感で、わずかな色のズレもそのまま画像に記録してしまいます。
アクロマート望遠鏡で長時間露光を行うと星が滲んでしまったり、星雲の輪郭がぼやけたりしてしまいます。
実際、私がアポクロマートではないレンズで星雲を撮影したときにはこうなってしまいました。

天体写真では特に画像処理が重要なプロセスですが、星の周りにハロがあるとどんどん強調されてしまいます。
その結果、星が肥大化したり紫色のハロだらけの写真になってしまいます。
アポクロマートなら色収差が徹底的に補正されているため星が点のようにシャープに写り、天体写真でもプロ並みのクオリティを目指すことができます。
実際、私も天体写真でアポクロマートを愛用してます。
作例はこんな感じです。



その上で、アクロマートとアポクロマートを選ぶ際のポイントを書いていきます。
アクロマート望遠鏡を選ぶ際のポイント
アクロマート望遠鏡は主に眼視用です。
そこでアクロマートを選ぶ際に重視したいポイントを見ていきましょう。
口径(対物レンズの直径)
アクロマートでもっとも重要なのはレンズの大きさです。
口径が大きいほどより多くの光を集めることができ、暗い天体もより明るく観ることができます。
また、口径と分解能は反比例の関係にあります。
分解能が小さいほど近くの星を分離して見分けることができます。
なので、特に二重星を観測したいという方は口径が最も重要になります。
一般的には80mm-120mmクラスのアクロマートが初心者にも扱いやすく、月や惑星はもちろん明るい星団や二重星も楽しむことができます。
焦点距離
焦点距離が長い望遠鏡はより高い倍率で天体を観察できます。
例えば惑星の細かい模様を観たいなら、焦点距離が長めの機種がおすすめです。
500mm以上あれば十分でしょう。
ただし焦点距離が長すぎると筒が長くなり、取り回しが大変になる点も注意してください。
価格とコストパフォーマンス
アクロマートはアポクロマートに比べてかなり安いですが、あまりにも安すぎるものは作りが粗雑だったり、色収差がひどかったりする場合もあります。
信頼できるメーカー製のものを選び、できれば実際に試用したレビューなどもチェックするのがおすすめです。
アポクロマート望遠鏡を選ぶ際のポイント
アクロマートが眼視用なのに対して、アポクロマートは天体写真や電子観望(カメラを使って天体を画面越しに観察する)用です。
アポクロマートを選ぶ際のポイントも押さえておきましょう。
使用されているガラス素材
高級なアポクロマートではEDガラスや蛍石(フローライト)といった特別なレンズ素材が使われています。
これらの素材は色収差を徹底的に抑えるだけでなく、像のコントラストやシャープネスを大幅に向上させます。
蛍石レンズを採用しているモデルは特に高性能ですが価格も高めです。
どこまでの性能を求めるかによって選択肢が変わってきます。
f値
アクロマートは口径が一番大事ですが、アポクロマートは天体写真に使うことを考えるとf値が特に重要です。
f値 = 焦点距離(mm) / 口径(mm) で得られる数値で、f値が小さいほど明るいとされます。
f値が明るいとより早く天体の光を集めることができ、天体写真で有利になります。
目安はf5くらいです。
ただ、f値が小さいほど収差を抑えるのが大変になるので高価になります。
重量
アポクロマートは重量があるため、それを支える赤道儀(架台)も十分な強度が必要です。
持ち運ぶのも考えたら5kg前後のものが一番いいと思います。
予算には望遠鏡本体だけでなく、赤道儀や三脚、ガイドスコープなどの周辺機材の分も考慮しておきましょう。
アクロマート望遠鏡の信頼できるおすすめ機種
望遠鏡選びで後悔しないためには信頼できるブランドを選ぶことが重要です。
安心を求めるなら国産、コスパを求めるなら海外製の Sky-Watcher がおすすめです。
また、スコープテックのラプトル60という望遠鏡もあります。
この望遠鏡は「子ども用」と書かれていて2万円代なのでバカにされますが、実際の見え味は素晴らしいそうです。
残念ながら私は使ったことがありませんが、Amazonのレビューが1306あり星4.3(2025年4月時点)なので多くの人に評価されているのがわかります。
華奢な見た目とのギャップを楽しんでみてはいかがでしょうか。
アポクロマート望遠鏡の信頼できるおすすめ機種
次は天体写真で威力を発揮する、アポクロマート望遠鏡の中でおすすめのものを紹介します。
それが William Optics のRedcat51です。
Redcat51は私が使っている望遠鏡です。
口径が51mmで焦点距離が250mmしかなく、望遠鏡というよりかはカメラレンズのようなコンパクトさです。
「こんな小さいのに14万円?」と思われるかもしれませんが、驚くべきは星像のシャープさでしょう。
色収差がほぼないと言っても過言ではありません。
先ほどの私の作例はすべてRedcat51で撮ったものです。



星が極限まで鋭く、画素数が少ないカメラでは本来の力が発揮できないとまで言われるほどです。
私もRedcat51で天文ガイドに作品を掲載していただけました。
本当におすすめです。
初心者にありがちな失敗と注意点
ここまでで色々なことを書いてきました。
ですがせっかく望遠鏡を買っても、後悔してしまう人が少なくありません。
ここでは初心者がやりがちな失敗とその対策をまとめます。
倍率ばかりにこだわる
「〇〇倍で見える!」といった広告に惹かれがちですが、実際は倍率よりも口径のほうがはるかに重要です。
なぜなら、倍率はアイピースでいくらでも上げられるからです。
ですが、無限に倍率を上げて星が見られるかというとそうではありません。
望遠鏡には「分解能」という数値があり、角度で表されます。
その角度より小さい星々は見分けられず、いくら拡大してもぼんやりとしか映らないというわけです。
分解能の角度を小さくしてシャープにするには口径を大きくするしかありません。
なので眼視においては「口径こそ正義」という言葉は正しいと思います。
倍率ではなくまずは「レンズの大きさ」を重視しましょう。
望遠鏡本体だけで選んでしまう
いい望遠鏡本体を選んでも、それを支える赤道儀や三脚が貧弱だと台無しです。
セット全体のバランスを考えて購入しましょう。
特にアポクロマートは重さがあるため、対応する赤道儀もしっかり選ぶことが重要です。
目的を明確にせずに買ってしまう
「とりあえず良さそうだから」と適当に選んでしまうと、後から「本当は天体写真もやりたかったのに…」と後悔することになりかねません。
購入前に
・眼視中心か
・撮影もしたいか
・携帯性を重視するか
など、自分のスタイルをはっきりさせておくことが大切です。
望遠鏡選びで後悔しないためのアドバイス
ここでは望遠鏡選びで失敗しないためのアドバイスをお届けします。
できれば実物を見て触ってみる
可能であれば天文ショップやイベントなどで実物を見て、触ってみることをおすすめします。
筒の太さや長さ、重さ、操作性など、カタログスペックだけでは分からない感覚が得られます。
予算は「本体+周辺機材込み」で考える
望遠鏡本体以外にも様々なオプションが必要になります。
眼視の場合は
・三脚
・アイピース
・エクステンダー
などが必要になると思います。
反対に、天体写真の場合は
・赤道儀
・カメラアダプター
・レデューサー
などが必要になると思います。
トータルの予算を考えたうえで無理のない計画を立てましょう。
最初の1台は完璧を求めすぎない
最初の1台で全てを完璧にしようとすると、かえって選びにくくなります。
まずは「これで観望を楽しむ!」という1台を選び、必要に応じてステップアップしていけば大丈夫です。
望遠鏡は使うほどに自分に合った機材やスタイルが見えてくるものです。
焦らず楽しみながらステップアップしていきましょう。
反射望遠鏡という選択肢も
ここまではレンズを使う屈折望遠鏡、つまりアクロマートやアポクロマートについて説明してきました。
ですが天体観測にはもうひとつ重要な選択肢があります。
それが反射望遠鏡です。
屈折望遠鏡はレンズで光を曲げて光を集めるのが特徴ですが、反射望遠鏡は鏡で光を曲げて光を集めます。
鏡で光を集めるため色による屈折率の違いが発生せず、そもそも色収差がほとんどないという大きな特徴があります。
反射望遠鏡にもメリットとデメリットがあります。
メリット
・色収差が基本的に発生しないため、星像が非常にシャープ
・同じ口径サイズの屈折望遠鏡に比べて圧倒的に安い
・大口径モデルが手に入りやすいため、より暗い天体にもチャレンジできる
たとえば20cmクラスの大口径反射望遠鏡でも、アポクロマートの半額以下で購入できることも珍しくありません。
これにより、星雲や銀河などの淡い天体の観察に非常に強みを発揮します。
また、反射望遠鏡は口径を大きくしやすいので眼視にもうってつけです。
口径20cmや30cmで見る銀河はものすごい迫力ですよ。
デメリット
・使うたびに光軸調整が必要になる
・鏡面が汚れやすい
・大型になりやすい
・眼視の場合は若干コントラストが落ちる
反射望遠鏡の最大のデメリットが光軸調整です。
慣れてしまえばなんてことはないのですが、初めての人からすれば非常に難しく終わりの見えない作業です。
中には光軸調整が嫌で天体趣味をやめてしまった人もいます。
なので、最初の1台はまずは屈折望遠鏡のアクロマートかアポクロマートから始めてみましょう。
望遠鏡の基本的な扱いに慣れてから反射望遠鏡を触るととても面白いですよ。
反射望遠鏡はとにかく安くて性能がいいので、屈折望遠鏡に慣れたら挑戦してみてください。
まとめ
ここまででアポクロマートとアクロマートの違い、使い所についてわかりましたか?
アポクロマートとアクロマートの両方にいいところと弱いところがあります。
それを理解して望遠鏡を選んでみてくださいね。
では。


















