天体写真

赤道儀にはカウンターウェイトが必要!バランスの取り方

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天体写真に欠かせない赤道儀ですが、運用には思いのほか繊細な注意が必要です。

私は過去に、ほんの一瞬の油断で望遠鏡がひっくり返るという恐ろしい経験をしました。🥺

この記事ではその失敗談とともに、カウンターウェイトの重要性や赤道儀のバランス調整の基本についてお話しします。

野辺山で起きた恐ろしい体験:R200SSが大回転

ある6月の夜、私は野辺山でR200SS(約7kg)を使った撮影をしていました。

こんな感じです。

いつも通り赤道儀に鏡筒を載せ、カウンターウェイトを取り付けようとしたその瞬間――赤道儀がいきなり回り出し、鏡筒が大きく振り回されました。

原因はカウンターウェイトを装着する前に鏡筒を載せてしまったことです。

焦っていたとはいえ基本中の基本を忘れていたのです。

幸い手で押さえたので機材は無事でしたが、今思い出しても背筋が凍る出来事です。

バランス調整はなんで重要なの?

ちまたでも「赤道儀のバランス調整をしてください」とよく言われると思います。

ですが「そこまで神経質にならなくても動いてるし…」と思ったことはありませんか?

実はこのバランス調整こそが赤道儀の性能を最大限に引き出すための土台なんです。

その理由を簡潔に説明します。

モーターの負担を減らすため

赤道儀はモーターの力で鏡筒をゆっくり動かし、星を追尾します。

バランスが崩れているとモーターは一方向に常に力をかけ続けなければならず、負荷が大きくなります。

その結果、

  • モーターやギアの摩耗が早まる
  • 動作音が大きくなる
  • 電力消費が増える
  • 最悪の場合は故障

といったトラブルにつながります。

追尾精度を高めるため

天体写真では星をピクセル単位で追尾する必要があります。

バランスが崩れているとモーターの動きにムラが出たり、ギアの遊び(バックラッシュ)が目立って星がブレて写ってしまう原因になります。

長時間露光や高倍率での撮影ではほんの少しのズレが命取りです。

完璧な追尾にはある程度バランスを取ることが欠かせません。

不測の動作や事故を防ぐため

バランスが極端に崩れていると、ロックを緩めた瞬間に鏡筒が勝手に勢いよく回転することがあります。

この場合、追尾中に角度が変わった瞬間に望遠鏡が回転して事故になるかもしれません。

私が野辺山でウェイトをつけ忘れたときみたいに、望遠鏡側にモーメントが偏っていると望遠鏡が急に下方向に落ちていきます。

機材の落下や赤道儀の破損、場合によっては人身事故につながることもあり危険です。

「バランスが取れている」というのは、赤道儀にとって安全の基本でもあるのです。

赤道儀本来の性能を引き出すため

どんなに高性能な赤道儀でも、バランスが悪い状態ではその性能を発揮できません。

「思ったとおりに追尾ができないな…」という人はバランスが悪いことが原因かもしれません。

逆に言えば、正しいバランス調整だけで今持っている機材の精度を一段引き上げることができるのです。

赤経軸と赤緯軸の違い

赤道儀には2つの軸があります:

  • 赤経軸(RA軸)は地球の自転と同じ方向に回転し、星を追尾する軸。
  • 赤緯軸(DEC軸)は天体の位置を導入するための軸。

なので原理的には赤経軸だけで星を追尾できるのですが、自動導入やオートガイドには赤緯軸が必要です。

まずは赤経軸からバランスを合わせましょう。

どうやってバランスを合わせるのかというと、てこの原理で合わせます。

両端のモーメントがほぼ同じになるようになれば釣り合って安定します。

天秤やシーソーと同じような感じですね。

赤経軸のバランスはカウンターウェイトの位置と重さで調整します。

一方、赤緯軸のバランスは鏡筒をアリガタプレートごと前後にスライドさせて微調整する必要があります。

詳しいやり方を解説しますね。

バランス調整の基本ルール

赤道儀のバランス調整は「感覚」ではなく物理的なてこの原理に基づいて行います。

以下のルールを覚えておくと、スムーズかつ確実にバランスを取ることができます。

赤経軸のバランス調整

赤経軸は鏡筒とカウンターウェイトがシーソーのように釣り合う位置に調整します。

具体的には次のように考えます:

  • 望遠鏡側が重いとき:カウンターウェイトを赤道儀から遠ざける
  • ウェイト側が重いとき:カウンターウェイトを赤道儀に近づける

これによって左右のモーメントを等しくし、赤経軸が自然に止まるバランス状態を作ります。

赤道儀のクランプを緩めた状態でウェイトと望遠鏡を水平にして止まるのが理想ですが、ウェイト側が少し重くても大丈夫です。

逆に、望遠鏡側が重いとバランスが悪くなるので調整してください。

赤緯軸のバランス調整

赤緯軸は鏡筒を前後方向にスライドさせて調整します。

ここでは鏡筒の左右のバランスを取るイメージになります:

  • 鏡筒の左側が重いとき:鏡筒を右側に寄せる
  • 鏡筒の右側が重いとき:鏡筒を左側に寄せる

この調整はアリガタプレートや鏡筒バンドのスライド機構を使って実際に軸を動かしてみながら微調整するのがコツです。

ウェイト無しでの追尾は事故のもと

「鏡筒が軽いから」「ちょっとだけ動かすだけだから」――そんな油断でウェイト無しの状態で赤道儀を動かすと、赤経軸が勢いよく回転して鏡筒がひっくり返る危険があります。

実際、私が望遠鏡を先に赤道儀に載せたところ望遠鏡がひっくり返りました。

固定が甘かったら落下していたと思うと恐ろしいです。

なので軽い望遠鏡でも必ずウェイトを使用してください。

(一部のハーモニックドライブ赤道儀ではウェイトなしで望遠鏡を積めるものもありますが、基本的にはウェイトは必要です)

これは追尾精度の問題ではなく完全な事故リスクです。

人身事故や機材破損を防ぐためにも、カウンターウェイトを付けずに赤道儀を動かすのはやめましょう。

ウェイトのネジをしっかり締めないと大惨事!

もうひとつ多いトラブルが、ウェイトのロックネジの締め忘れです。

追尾中、ゆるんだウェイトが少しずつ下にずれていってある瞬間にバランスが崩壊することがあります。

赤道儀が勢いよく回転し、鏡筒がひっくり返ることも…

ウェイトを装着したあとはしっかりとネジを締め、手で軽く引っ張って確認することを習慣にしましょう。

ウェイトをつけたあとは必ずロックネジを棒の先端にはめること

たとえウェイトがしっかり締まっていたとしても、突然の振動や事故でネジが緩む可能性はゼロではありません。

そのため、カウンターシャフトの先端にはストッパーネジ(ロックネジ)を必ず取り付けておきましょう。

こんなやつです。

これがあれば、万が一ウェイトがずり落ちても下に落下することはありません。

このパーツは無くしやすいので気をつけてくださいね。

ウェイトは必要!重い望遠鏡を使うときは買い足そう

大きな鏡筒や重たいカメラを使うと、付属のウェイトでは足りないことがよくあります。

そのまま使うと追尾が不安定になるだけでなく、赤道儀そのものに無理な力がかかってしまいます。

必要に応じて追加でウェイトを購入するのは大事なことです。

予算がない場合は延長シャフトを買ってモーメントを稼ぐといいでしょう。

ただ、ネジの径が合わないと延長シャフトがつかない場合があるので気をつけてください。

バランスが合う位置に印をつけよう

ただ、毎回セッティングするときにバランスをゼロから取り直すのは手間がかかります。

そこでおすすめなのがバランスが合う位置に印をつけておくことです。

  • カウンターシャフトにテープを貼る
  • アリガタプレートの下に印をつける
  • 蓄光テープで暗所でも見えるようにする

など、ちょっとした工夫で設置時間の短縮につながります。

ただし、最終的には必ず手でバランス確認を行いましょう。

三脚が低すぎるとウェイト側に倒れる可能性がある

また、バランス調整では三脚の高さも重要です。

赤道儀を地面に近づけるために三脚を低く設置することがありますが、注意が必要なのがカウンターウェイトの位置とのバランスです。

重心が低すぎると逆に不安定になることも

一見すると三脚を低くすれば安定するように思えますが、実際にはウェイト側の重心が三脚の支点より外に出てしまうことがあるのです。

特に

  • 重い鏡筒を使っていて、重いウェイトを付けているとき
  • シャフトが斜め下を向いた状態で長く突き出しているとき
  • 不安定な地面や傾斜のある場所に設置しているとき

にはウェイト側にぐらついたり、最悪そのまま赤道儀ごと転倒する危険があります。

実際に起きた例も…

私自身も過去に地面に座って撮影しようと三脚を目いっぱい低くした結果、カウンターウェイトが三脚の外に出てしまい、少し赤道儀を触っただけで赤道儀が浮いたことがあります。

そのときは慌てて修正しましたが、もし気づかなければ赤道儀ごと横転し、機材が破損していた可能性もありました。

恐ろしいですね。

遠征ではいつもより小さな三脚を使うのですが、「三脚の高さはある程度必要だな」と思った瞬間でした。

対策:重心と設置角度を意識しよう

  • 三脚は低くしすぎず、安定する高さを確保する
  • ウェイトが三脚の内側に収まる位置を意識する
  • 傾いた地面では脚の長さを調整して水平を保つ
  • 赤道儀や鏡筒を載せる前に、三脚だけでグラつきがないか確認する

小さな三脚を使うときは注意してください。

まとめ:赤道儀はバランス命

赤道儀におけるカウンターウェイトの役割は単なる重りではありません。

鏡筒と赤道儀を守り、追尾精度を支える要の存在です。

  • 鏡筒を載せる前にウェイトをつける
  • ネジをしっかり締める
  • 先端にストッパーを付ける
  • 必要に応じてウェイトを追加する
  • バランスが取れる位置を記録しておく

これらを守ることで安心・安全に天体撮影を楽しむことができます。

一度でも大回転や転倒を経験すると、その重要性は痛いほど身に染みます。

私も焦ったり眠かったりすると手順を間違えるので気をつけたいです。

みなさんはちゃんと手順を守ってくださいね。

では。

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