「最近リモートで天体写真を撮る人が増えてるけど、それってどうなの?」
そんな声をSNSやブログのコメントで見かけることが増えてきました。
私は今でも、できるだけ自分の足で遠征して夜空の下でカメラをセットして撮ることを大切にしています。
ですが同時に、リモート天体写真という選択肢もありだと思っています。
むしろ、現代の天体写真においてはとても合理的で有効な手段です。
今回は「リモート撮影って邪道なの?」と疑問を感じている方に向けて、私なりの考えを書いてみたいと思います。
Contents
リモート撮影は効率のかたまり。合理的な選択
まず前提として、リモート天体写真は科学的・技術的に見て非常に効率的な方法です。
多くの場合、暗い空を求めて遠征するには車で何時間もかけて山奥や高原まで行かなければなりません。
機材を組み立てて撮影して、片づけて帰宅する頃には夜が明けている……そんなことも珍しくありません。
特に体力的に限界が近づいてきたお年寄りの方には遠征はつらいです。
ですが、リモート撮影なら世界中の天文台や個人が設置した遠隔操作の望遠鏡を使って、自宅にいながら高品質な天体画像を撮ることができます。
操作はインターネット経由。
撮影中は自分の部屋でくつろいで待つことだってできます。
これはもう、物理的・時間的な制約を突破する力を持っています。
さらに、晴天率が高い地域(例えばチリ)に設置された望遠鏡を使えば日本では難しい長時間露光も可能になります。
10時間、20時間、あるいはもっと。
それだけの時間を確保できるのは遠征撮影ではなかなか難しいことです。
作品のクオリティを高めたい人、淡い星雲やHII領域などのディープスカイを狙いたい人にとってリモートはむしろ理想的な環境と言えます。
でもやっぱり、夜空の下にしかないものがある
とはいえ、私はこうも思うのです。
「写真に写らないもの」にこそ、天体写真の本当の魅力があるのではないかと。
たとえば山奥の空で撮影していると、空を見上げるとそこには満天の星が広がっています。
時が止まっているかのような静寂の中で、ただ夜空を眺める時間。
さそり座が昇ってきているのを肉眼で見ながら、その下で構図を調整してシャッターを切る。
そんな時間は写真として形に残らなくても、一生の記憶として心に残ります。
この前は現地の人がいたので星空の案内をしました。
そんな人との出会いもあれば、ただ一人で星空を眺める時間もあります。
機材トラブルに悩まされたり思い通りにいかなかったりもしますが、そんなことも含めて「体験」としての天体写真の思い出になります。
私はそういう時間が好きで、たとえ成果が少なくても「行ってよかった」と思える夜がたくさんあります。
リモート星景写真は存在しない
少し極端な言い方かもしれませんが、「リモート星景写真」は存在しません。
まあ定点観測みたいにカメラを同じ場所に置いて、無線で写真を撮るならリモート星景写真になるかもしれませんが笑
風景と星空が一体となった写真はその場に立って、その空気を感じながら撮るからこそ意味があります。
たとえば湖に映る天の川、雪原に落ちる月明かり、夜明け前の空に浮かぶ金星。
それらはその場に自分がいて、構図を決めてシャッターを切ったという体験そのものが作品の一部になっているのです。
一方で、天体写真は科学的な観測という性格も強く持っています。
宇宙の淡い光を集め、できるだけ正確なデータを記録し、美しく処理する。
その意味で、リモートとの相性は非常に良いです。
天体写真が「作品」であると同時に「記録」でもあるとすれば、リモートはひとつの到達点とも言えるかもしれません。
ですが星景写真は違います。
その場の風景と空と、人間の感情がすべて合わさって完成する。
だからこそ星景写真は「現地でしか撮れない」ものなのです。
それぞれに異なる魅力と目的があり、どちらが上という話ではありません。
実際、私は遠征に行って赤道儀をセットしたあとは星景写真を撮っているので両方楽しんでいます。
ただ、実際に夜空の下で撮影するのが星景写真だと私は思っています。
なので星景写真の延長で天体写真を始めた人は遠征が好きでしょうし、データを集めて作品を仕上げていくのが好きであればリモートのほうが合っているでしょう。
リモート or 現地撮影—— 目的に応じて使い分けるのが正解
じゃあ、どっちが「正しい」のか?
私の答えはシンプルです。
どちらも正解。
目的に合わせて選べばいいだけです。
天体写真に何を求めるかは、人それぞれです。
- 高品質な作品を仕上げたい
→ リモート撮影がオススメ。天候リスクが少なく、長時間露光が可能で、効率も良い。 - 自然の中で星空を楽しみたい
→ 現地撮影がオススメ。星空と過ごす時間そのものが、かけがえのない体験になります。
写真を作品として突き詰めたい人、あるいは研究データを収集したい人には、リモートという選択肢はとても有効です。
一方で、写真を思い出や感動と共に残したい人には、遠征して空を見上げる時間が何よりも大切になるでしょう。
フォトコンテストの今後に思うこと
ただ、最近のリモート天体写真が「不公平だ」と思う人もいると思います。
代表的なのがフォトコンテストですね。
雑誌の作品投稿もリモートの割合が増えていて、30時間以上露光したものもざらにあります。
「そんな作品と戦っても勝てない」とやる気を失ってしまうかもしれません。
リモート勢は晴れていて月がいない夜には毎回撮影できるので、その分露光時間が増えます。
一方で、遠征組はどうしても天候や移動の制約を受けます。
撮影できるのは月に数回、多くても数時間だけというケースもあるでしょう。
その差は作品のS/N比(信号とノイズの比)や階調の滑らかさ、淡い星雲の表現に直結します。
こうした事情から、「リモートでないと入賞しにくいのでは?」と感じてしまう人も増えているようです。
これは決して誰かが悪いという話ではありません。
ただ、リモートの長時間露光と、遠征の限られたチャンスとを単純に同列で評価するのは難しい時代になってきたというだけです。
だからこそ、今後のフォトコンでは「リモート部門」と「現地遠征部門」を分けて募集・審査するといった仕組みがあってもいいのではないかと思います。
そうすることで両者の魅力や努力の方向性がフェアに評価され、それぞれの文化が健全に育っていくのではないでしょうか。
少なくとも、現状ではリモート勢と遠征勢が同じく評価されることになるのでかなり不公平だと思います。
最後に
私自身は現地で撮影することを基本にしていますが、リモートにも興味があります。
たまにチリやオーストラリアの望遠鏡で撮影された写真を Telescope Live というサイトから入手して、実際に画像処理してブログにもあげたりしています。
リモートは素晴らしいデータを画像処理できる楽しさがありますが、遠征には夜空の下で撮影したという思い出や天の川が撮れるという楽しさがあります。
体力や時間に制約があるとき、遠征ができないときにリモートという選択肢があることで撮影の幅が広がるのは間違いありません。
どちらか一方を否定するのではなく、お互いの価値を認めて尊重することが大切だと思っています。
では。